Recording in RWANDA ★ 落ち込むこともあるけれど、わたしは元気です!

2009年10月2日

手術

こんなとき、つい
「ここが日本だったら助けられたのに・・・」と思ってしまう。
まだまだ甘いな、わたしは。
職場に「重度の難産」という連絡が入りました。
帝王切開の準備をしようとするけど
ふだん診療業務をしていないこの機関には、抗生物質どころか消毒液さえなく、
かろうじて見つけた、使った形跡のない手術器具を持って現場へ。
途中の薬局で飼い主と合流して、必要なものを買ってもらいました。
縫合針と抗生物質と消毒液と麻酔薬。
こんなものが街角で手に入るのもびっくりですが・・・笑
飼い主がそれらを買っている間に、わたしは先に現場へ!
途中の小学校の目の前で
運転手が子供を轢きかけて、大騒ぎになり
大幅のタイムロス。
ようやく到着して駆け寄ると、
お母さん牛はかなり衰弱していて
産道に手を入れてみると
赤ちゃん牛の前足のヒヅメと下顎がなくなってる・・・体表はパサパサ・・・
そうとうがんばってみんなで引っ張ったんでしょう。
ゆうべから産気づいていた、とのこと。
この国では獣医さんがすぐに駆けつけるシステムが整っていないのです。
赤ちゃんの生存は絶望的。お母さん牛も手術に耐えられるか怪しい。
だけどどうしても帝王切開してほしい、とのことで、手術開始。
お母さん牛をなんとかもたせたいけど
リンゲルもなければ点滴チューブもない。
とにかく急ぐしかない。
お腹を開けて、手を入れてゾッとしました。
赤ちゃん牛の足が・・・子宮の外にある・・・
苦しくてもがいた赤ちゃんが、後ろ足のヒヅメで子宮を蹴破ったもよう。
子宮破裂。
それもそうとう時間がたっています。
お腹の中は子牛から抜け落ちた毛と胎便で激しく汚染され、
子宮は弾性を失い、硬く縮んでいます。
どうにか赤ちゃんを摘出し、
硬く縮んでしまった子宮をめくら縫いして、お腹を閉じました。
皮膚を縫い始めたころ、
お母さん牛のバイタルがかなり乱れてきました。
「輸液したい!」
「ステロイド打ちたい!」
「エピネフリンがほしい!」
「お願いだから耐えてくれ!」
と心の中で叫びつつ、大急ぎで縫い終えたところで
お母さん牛は大きく伸びをして、そのまま動かなくなりました。
傍らには、ハエにたかられている死んだ赤ちゃん牛。
アフリカでの第一回目の手術は
とてつもなく悲惨なものでした。

助けたかったなぁ・・・

11 件のコメント:

  1. すごいなぁ
    残念やったな
    日本違って設備がないからね
    それでもやっぱり救いたかったよね

    母牛はかなり辛かっただろうね
    もう少し早く分かっていたらや
    手術できたらって思うよね

    kiriがそこでずっと悔やんでいても
    母牛は悔やまないでって思っているからね

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  2. お久しぶりです。
    大変さと悔しさと虚しさが伝わってきました。
    何とかしたいのに、どうにもならないもどかしさが辛いほど分かりました。
    私の最近を振り返ってみたら、手術をやるためにすべての機材が揃っていても、まだ新しい機材が欲しくなる贅沢さを痛感しました。反省です。
    がんばってくださいね。

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  3. ご苦労様でした。
    たいへんな手術でしたね。
    親子牛さんは本当に気の毒でした。
    悲しくて悔しかったでしょうが,どうか長い目でみて,
    本当に大切なものを見失わないで。
    お母さん牛はきっと感謝していますから。

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  4. 大変でしたね。悔しかったでしょうね。
    何よりも子牛が大好きなKiri先生の事だから、
    助けたかったでしょうね。
    その環境で、それ以上の事はできないくらい
    最善の処置だったんじゃないでしょうか。
    kiri先生が思いっきり働けるくらいの薬剤や道具を
    揃えることができたらいいのに・・・
    お疲れさまでした。どうぞ落ち込まないでね。

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  5. 残念です・・・
    すごい無念、悔しいですよね・・・
    親子を助けることは出来ませんでしたけど、Kiri先生が助けようとして全力を尽くしてくれた事を、飼い主さんも、他の農家さんも、見ていた人も、親子もきっっと感謝してくれていると思います。

    まだまだ大陸中にKiri先生を必要としている牛さんと農家さんがたっくさんいるはずです!!
    気持ちが上向きになったら、次の牛さんの所へ行ってあげて下さいな!!み~んな待ってるはずですよ~!

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  6. Hasuちゃん2009年10月3日 9:51

    ベストを尽くして頑張ったあとは・・・・

    美味しい牛乳を飲み(僕も飲みたーい!)

    ぐっすりとよく眠る。


    あとは日薬がじわじわ効いてくるので

    「超プラ」でいけば大丈夫!


    ふと二人でやった腸閉塞の手術を思い出しました。

    術者が僕で、助手がKiri先生。

    補液もエピネフリンもステロイドもどっさりあったけど・・・。

    あん時の僕はひどかった・・・・。


    へこんでいるんじゃないよ!心より応援してまっせ!

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  7. 本当に生命と直結してるお仕事だね。


    次の牛さんのところに向かう勇気をもてるよう,
    祈ってますよ。

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  8. >zizi
    ありがとう。
    悔やんではいないけど・・・やっぱりくやしいね。
    この国でできることを模索していかなくちゃ。
    たら、れば、は意味がないもんね。
    気持ちの切り替えだけは速いので大丈夫。
    これが臨床家の秘訣です!

    >やま
    おひさしぶりです。
    共感していただいて、ちょっとホッとしました。
    やっぱりやまさんはアフリカじゃなく、モノのある国にいらっしゃるんだから
    必要に応じて設備をアップデートしていくこともこれまた義務なのかもしれませんね。
    今何よりほしいのは・・・薬をあらかじめ常備しておく、という獣医師のスタンスです!

    >324k
    うん、わかった。
    二年は長いよね。焦らないようにしなくちゃ。
    変えられるものは変える努力を、
    変えられないものは受け入れる努力を、だね。
    誰かに似て短気なので・・・笑

    >裕子
    ドロドロに汚れて疲れ果てて診療所に戻ると
    いつも裕子さんがそう言って励ましてくださったなぁ、と
    なつかしく思います。
    あー!薬も器具も用意して、片っ端から治療してまわりたい!!
    こういう種類のストレスに見舞われるとは思ってませんでした。
    一日の診療を終えて、すべてを使い果たしたあの感覚が恋しいです。

    >y243
    そうなんだよね。
    わたしの姿が周りで見ていた人たちに何かを伝えることができたなら、唯一の救いなんだけどね。
    アジア人の小さい獣医が血相変えてやって来て汗だくになってなんかいろいろやってくれたぞ、
    俺たちも牛を大事にしよう、って思ってくれたら
    ただの徒労に終わらずに済むのに。

    >Hasuちゃん
    シェパードで学んだことで一番大きかったのは
    その「超プラ」だったのかもしれません。
    汚れた術衣を洗って、しっかり食べて、さっさと寝る。
    ひきずったまま次の仕事ができるほど臨床は甘くない。
    ってとこでしょうか。
    でも今は夕方カルテを書きながら笑いあえる仲間がいないのがつらいですねー。
    ルワンダ人同僚は、慰めたり励ましたりしてくれるんですが
    やっぱり「笑い」が大事だな、と。

    >Hiromi
    命とガチンコで向き合うっていう仕事は
    やっぱりきついけど病みつきになるんだよね・・・
    今はそれができないのがストレスです。笑
    ひろちゃんも少年たちの人生に向き合う仕事。
    取り込まれたり流されたりしないで
    「なんとかなる」の精神で!

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  9. 何だろう。すごい慌ただしい現場の雰囲気と後の重苦しい雰囲気が伝わってくる。
    kiriの精一杯が救いの手にならなかったことはプロフェッショナルとして悔しいんよね。
    一つじゃなくて二つの命が亡くなったわけやからね。
    この先にもたくさんの凄まじい現場へ駆けつけることになりそうだね。

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  10. 様子がすごくよく伝わってきたよ。悔しかったね。
    自分の思うような治療ができなくてもどかしい思いをしてるんだね。
    でも焦らないでね。みんなが命を大事にする気持ちが少しずつでも芽生えてくれたらいいね。

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  11. >司
    そうだねー。
    なんか腰の痛みと、悔しい気持ちだけが残った感じ。
    プロフェッショナルとして、もっと他にやり方があったのでは?とか
    次は薬の手配をもうちょっと首尾よくできるように工夫しよう、とか
    そんなことを考えつつ、
    でも本来のミッションも進めなくちゃね。
    (要請内容はラボ仕事がメイン)

    >tomobo
    協力隊の2年って長いようで、何かを変えるにはとても短いとよく言われていて
    だけど、その期間に現地のひとにわたしたちのがんばる姿を見せ、
    言葉を交わし、感情を共有することで、
    何かの種を蒔くことができるんじゃないか、と
    尊敬するスタッフの人に言われたことがあるんだ。
    芽吹くかどうかわからない種だけど。

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