ルワンダの話ではなく、
日本の畜産界を今、混乱に陥れている出来事について。
4月に宮崎県で発生した牛や豚の感染症、「口蹄疫」。
その後、感染の拡大が止まらず、
ついに昨日、
発生地域の全頭殺処分という局面を迎えたことを知りました。
4月下旬から
なかなかつながらないネットにイライラしながら
毎日のように発表される新規発生報告を
胸が詰まる思いで見ていました。
口蹄疫はウィルスによる感染症で、
熱が出たり、口の中や鼻先、足の先にミズボウソウみたいなのができて破れて、
それが痛くてご飯が食べられない、歩けない→衰弱していく、
という病気です。
人がかかることはありません。
たとえ口蹄疫を発症した動物と一緒に暮らしていても、
そのお肉やお乳を口にしたとしても、大丈夫です。
でも、人や車がウィルスを運んで
農家さんから農家さんへと感染を拡げてしまうことはおおいにあります。
また、口蹄疫ウィルスはタフなウィルスで、
風にのって何百メートル、何十キロと飛んでいって
離れた場所にいる牛や豚にとりつくこともできます。
そういったわけで防疫が難しい病気であるため、
もし一頭でもこの病気を発症した動物が見つかったら
それ以上あちこちの農家に感染が拡がらないように
そのおうちで飼われている牛や豚は
元気だろうがなんだろうが、一頭残らず安楽殺しなければならない、
と、日本の法律で決まっています。
殺処分を宣告する獣医さんの気持ち、
それを聞く農家さんの気持ち、
想像しただけで吐き気がしそうなほど苦しくなります。
月並みな表現ですが、大げさでもなんでもなく
牛飼いさんにとって牛はわが子同然です。
この一ヶ月あまりで100軒以上の農家さんで発症が見つかり
同じ敷地内で飼われているという理由で、10万頭以上の牛や豚に対して
殺処分が命令されました。
でも安楽殺した動物を埋める場所の確保が難しく、
殺処分の作業は今のところ2割くらいしか済んでいないようです。
もう安楽殺することが決まっているのに
お母さん牛は月が満ちたら赤ちゃんを産むし
えさだって食べます。
そんな牛たちを世話する農家さんの心痛も
もう限界に近いと思います。
さらに、この病気が発生した地点から
半径20km以内の地域は
牛や豚を移動させることが禁じられます。
牛や豚を移動できないということがどういうことかというと・・・
お母さん牛に赤ちゃんを産ませて
その赤ちゃん牛を売って生計を立てている農家さんは
赤ちゃん牛を売りに行くことができません。
その期間、収入ゼロです。
一方、子牛を育てて太らせてお肉にすることで生計を立てている農家さんは
太って食べごろの牛を売りに行くことができません。
その期間、こちらも収入ゼロです。
しかも、日本の肉牛はきっちり生後30ヶ月くらいで食べごろになるよう
計算しつくされたレシピのエサを食べているため、
お肉にするのがそれより早かったり遅かったりすると
商品価値がガクッと落ちます。
そして、売りに行くことができない期間も
もちろん牛たちはエサをたくさん食べます。
牛のエサは一日あたり300円から600円もします。
100頭飼ってたら一日3万円から6万円くらいの出費です。
この、いつまで続くかわからない移動制限期間のあいだ、
収入はゼロなのに
エサ代や光熱費などの出費だけはどんどんかさみ、
牛小屋を建てたり機械を買ったりしたときの借金の返済も待ってくれません。
また、口蹄疫の発生地域に出入りする車を消毒する
防疫対策チームの仕事も過酷です。
三交代で24時間、道路に待機して
往来する車に止めて、消毒薬をかけます。
でも、この深刻な状況を知らない一般の人の中には
わざとこの消毒場所を避けて迂回したり、
消毒薬がかかるのを嫌がって猛スピードで走り抜けたりと、
非協力的な人も多くいると聞きます。
また、ゴールデンウィークには
観光客がどっと宮崎におしよせ、そして帰っていきました。
その人たちもウィルスを運んでいる可能性があるのです。
他の地域の農家さんたちも
次は自分の町にウィルスがやってくるのではないかという恐怖と闘いながら
毎日、必死の消毒作業を続けます。
獣医師もウィルスを運ぶことがないように、
一軒一軒、診療着を着替えながらの往診です。
明日は自分が牛の口の中に水ぶくれを発見してしまうかもしれない、という
張り詰めた精神状態で、往診以来の電話にこたえて現場に出向きます。
・・・こうした防疫作戦にもかかわらず
今回、いろんな理由で感染の拡大が止められず、
ついに、発生地域のすべての農家さんの牛や豚を
予防的に殺処分することになったようです。
この決定でさらに約20万頭が殺処分リストに追加されることになるとのこと。
昨日の朝、読売新聞のネット版でこの決定を知り、
さすがに鳥肌がたちました。
いまさら意味のないこととはいえ
国の対応の遅さや、防疫体制のツメの甘さを呪わずにはいられないとともに、
どうか、こんなむちゃくちゃな状況でも
農家さんの心と体が無事でありますようにと願うばかりです。
生き物を飼うという生業は
こういう一触即発の危険と隣り合わせの仕事です。
それでも農家さんたちは牛を飼うのです。
雨の日も、雪の日も、お正月も、孫の結婚式の日も
夜明け前からエサをかついで牛舎に向かうのです。
そんな農家さんのひたむきな日々のうえに
日本人の豊かな食卓があるのです。
そのことをどうか心に留めていただきたいと思って
本来このブログで取り扱おうと思ってなかった分野のことですが
思い切って書きました。
ルワンダの農家の子