Recording in RWANDA ★ 落ち込むこともあるけれど、わたしは元気です!

2009年10月19日

またもや

無力感だけが残る手術。
なんだろう・・・
なんとかしないといけないんだけど。
(以下、生々しい内容なので苦手な方はご遠慮ください)

首都から車で一時間半。
呼ばれて行ったのは、経済的に厳しい家庭が集まる村。
難産。
産気づいたのは二日前。
到着したとたん、異臭が鼻をつく。
地元の獣医さんが胎仔の足を引き出そうとしたら
前足が二本ともちぎれて取れたとのこと。
腐ってるな。
産道に手を入れて、思わず表情がゆがむ。
気腫胎。
死んだ胎仔の体で細菌が増殖して
体全体がガスでパンパンにふくれあがってしまった状態。
帝王切開で摘出を試みるものの
二倍くらいにふくれあがった胎仔の入った子宮は
母牛の腹腔のほとんどを占めていて、
そのうえ他の臓器とべったり癒着していて、
子宮を手術創から引き出すのは至難の技。
急がないと母牛がもたない。
今回も輸液はなし。
しかたなくお腹の中で子宮を切開して
前足のない胎仔を摘出。
庭いっぱいに集まってきていた村の人たちの中に
子供がたくさん混じっていることに気づいていた。
胎仔が現れる直前に、子供たちを外に追い出してもらう。
これはちょっと見せられない。
手術後まもなく、母牛は死亡。
手術前からすでに冷たかった体は、あっというまに生気を失っていった。
日本だったら、屠場で屠殺される以外の方法で死んだ牛は
食用にはならず、産業廃棄物となる。
でもここは日本じゃない。
山のように集まった村の人たちのギラギラした目。
喉から手が出るほど肉が欲しい。
感染は胎仔だけじゃなく、母牛にも及んでいる。
この牛を食べちゃダメだ、と村人たちに一生懸命説明する。
でもまったく聞き入れられない。
地元の獣医さんの協力を得て
穴を掘ってもらって埋めてもらったものの
たぶん夜中に掘り出すだろう、とのこと。
たった一頭だけ飼われていた、まだ子牛を産んだことのない牛。
貧困家庭に一頭ずつ牛を、という国の政策で今年配布された。
飼い主は現金収入のない未亡人。
子牛の誕生を、そして毎日牛乳が飲める日々を
心待ちにしていたことだろう。
何をどうしたらいいのだろう。
とにかくお腹がすいた。
くやしい気持ちを飲み込むように、
もくもくと遅い昼ごはんを食べた。

6 件のコメント:

  1. また大変な手術になったね・・
    無理難題な状態なのにKIRIは一生懸命にやれること
    最善の道を見つけてやっているんだよね

    しかし国の政策で牛を一頭与えても
    その家庭でしっかりと育てられる環境を考えたりしたのかなと感じました
    もしそうでないにしても与えるだけでなくその後の事も考えて与えるべきなのではないかとも
    難しいですね

    悔しい気持ちを乗りきって(また同じような事もあるかと思うけど)
    また新しい気持ちをもって
    頑張って

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  2. とにかくそこからがスタートなんでしょう。
    最初からうまくいくことばかりではない。
    そうわかっているけど現実に直面すると辛い。


    あんまり関係ないけど子供の頃、自分の実家に来る獣医さんはとにかくスーパーヒーローで、難産や胎盤停滞の診察の後にはお風呂に入ってもらってたよ。
    そしてビールでも一杯引っかけて帰っていってた。
    すごい時代だったね~。

    キリちゃんもそのうちお風呂の準備とかしてくれるようになるよ♪

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  3. >zizi
    畜産に関わったことのない人にいきなり牛を配るってのは
    実際なかなかの荒業で、
    本来はまずヤギとかニワトリとか、
    もうちょっと難易度の低いものからスタートするんだけどね。
    一応、牛を配布する前に基本的な技術を教えたり
    各市町村に獣医技術者とか畜産指導員みたいなのを置いたりしてるんだけど、
    まぁ人が食べていくのにも事欠くところで、十分なサービスはできないよね。
    きっとこの母牛だってもう何日も前からエサ食べてなかったと思うけど
    飼い主が気づいても獣医に連絡できなかったのか
    獣医が診たけどよくわからなかったのか
    真相は謎のまま。

    >JOJO石せんぱい
    そうか、ここがスタートなんだ・・・!
    なんだか頭が少しすっきりしました。
    そのことを時々忘れて、焦ってしまうのかもしれません。
    まだこの国の酪農も獣医療も走り出したばかり。
    ようやく去年、すべての市にひとりずつ獣医が配置されたところです。
    薬を常備するお金もなく、
    ぼろぼろの原チャリの荷台に
    何度再利用を繰り返したかわからない注射器だけが入ったカバンを載せて
    往診にまわる獣医さんたち。
    まずは国全体がもう少し豊かにならないと
    救急対応だとか、一頭一針だとか、そういうのは望めないのかもしれません。
    お風呂かぁ・・・湯船にザブンと浸かりたいなぁ・・・
    ドラム缶風呂を真剣に考え始めてます。笑

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  4. >たぶん夜中に掘り出すだろう
    そうですか…大変ですね。
    牛の餌になる草はどれだけあるのでしょうか。
    どういう場所に飼われていたのでしょうか
    それに見合った牛の配布だとは思いますが
    これはまさに畜産の原点ですね。

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  5. 一昔前、日本のどこか小さな田舎にIT化を進めようとして家庭に一台ずつデスクトップのでかいパソコンを配布した地域がありました。使い方すらまともに知らないその地域の人たちにとって、そのパソコンはあっというまに粗大ゴミでしかなくなり、捨てるにも捨てられず家で埃をかぶってじゃまになっていて住民たちはこの政策に腹を立てているという話を思い出しました。
    牛はもちろん貧困家庭にはとてもうれしいプレゼントだろうから、この話とはちと違うけど、でも与えるだけでは何も解決にならないよね。
    彼らに前向きな希望を与えられる何かがあればいいのにと思うよ。
    ただ、ゆみねえがこの現状を変えなきゃと自分を追い込んだりしないことを祈ってます。なが〜い期間、時代を超えて変えていかないといけないことだね。ある程度は彼らの現状を受け入れて、「はい、はい、またですか」と思えるくらいになってもいいんじゃないかと。
    そんなこと言っても一生懸命彼らのために熱くなるのがゆみねえなんだろうけど・・・

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  6. >豆作先生
    コメントありがとうございます。
    今年は乾季が長引いてしまって、なかなか草が入手できなかったようです。
    今月の後半になってようやく本格的に雨季に突入したのですが
    それでも草を待ちきれず何頭もの牛が餓死しました。
    やっぱり技術的に未熟なところもあるし
    日本の技術が通用しない自然条件という強敵もいるし
    まぁとにかく一歩一歩、牛の歩みで進んでいくと信じて
    できることをやっていこうと思います。

    >tomobo-
    おお、長いコメントありがとう。
    とにかく、国内すべての貧困家庭に一頭の牛を、という目標に向かって
    やや強引に推し進めているプロジェクトではあるんだけど
    この経済状況にしてはアフターサービスもよくやってると思うんだよね。
    講習会も獣医師の配置も、驚くべき速さで実現しているから。
    ただ、やっぱりこういうのって得手不得手があるし
    正直、運もあるんだよね、生き物だから。
    いま、少しでもマシな体制で手術対応できるように
    薬の常備をプロポーション中。

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