こんなとき、つい
「ここが日本だったら助けられたのに・・・」と思ってしまう。
まだまだ甘いな、わたしは。
職場に「重度の難産」という連絡が入りました。
帝王切開の準備をしようとするけど
ふだん診療業務をしていないこの機関には、抗生物質どころか消毒液さえなく、
かろうじて見つけた、使った形跡のない手術器具を持って現場へ。
途中の薬局で飼い主と合流して、必要なものを買ってもらいました。
縫合針と抗生物質と消毒液と麻酔薬。
こんなものが街角で手に入るのもびっくりですが・・・笑
飼い主がそれらを買っている間に、わたしは先に現場へ!
途中の小学校の目の前で
運転手が子供を轢きかけて、大騒ぎになり
大幅のタイムロス。
ようやく到着して駆け寄ると、
お母さん牛はかなり衰弱していて
産道に手を入れてみると
赤ちゃん牛の前足のヒヅメと下顎がなくなってる・・・体表はパサパサ・・・
そうとうがんばってみんなで引っ張ったんでしょう。
ゆうべから産気づいていた、とのこと。
この国では獣医さんがすぐに駆けつけるシステムが整っていないのです。
赤ちゃんの生存は絶望的。お母さん牛も手術に耐えられるか怪しい。
だけどどうしても帝王切開してほしい、とのことで、手術開始。
お母さん牛をなんとかもたせたいけど
リンゲルもなければ点滴チューブもない。
とにかく急ぐしかない。
お腹を開けて、手を入れてゾッとしました。
赤ちゃん牛の足が・・・子宮の外にある・・・
苦しくてもがいた赤ちゃんが、後ろ足のヒヅメで子宮を蹴破ったもよう。
子宮破裂。
それもそうとう時間がたっています。
お腹の中は子牛から抜け落ちた毛と胎便で激しく汚染され、
子宮は弾性を失い、硬く縮んでいます。
どうにか赤ちゃんを摘出し、
硬く縮んでしまった子宮をめくら縫いして、お腹を閉じました。
皮膚を縫い始めたころ、
お母さん牛のバイタルがかなり乱れてきました。
「輸液したい!」
「ステロイド打ちたい!」
「エピネフリンがほしい!」
「お願いだから耐えてくれ!」
と心の中で叫びつつ、大急ぎで縫い終えたところで
お母さん牛は大きく伸びをして、そのまま動かなくなりました。
傍らには、ハエにたかられている死んだ赤ちゃん牛。
アフリカでの第一回目の手術は
とてつもなく悲惨なものでした。
助けたかったなぁ・・・